佐藤優 vs 河合洋一郎

モロッコ王家の研究所からの招聘から帰国した河合洋一郎氏と、国策捜査の末、猶予付きの有罪判決を受けた起訴休職外務事務官佐藤優氏が、外交問題でweb上で対談

名付けて、

『インテリジェンス That’s it!!』


1:「プーチン大統領の裏約束」

河合 いま米ロ間の最大の懸案事項というとアメリカが計画している東欧へのMDミサイル防衛施設建設ですが、この間のG8サミットでプーチンが代案としてアゼルバイジャンのレーダー施設を使わせてやる、と申し出ましたよね。結局、アメリカはそれを拒否したんだけど、中東方面からの情報を見ると、あのプーチンの提案は本気じゃなかったフシがある。実はロシアはイランに対して、アメリカには絶対にアゼルバイジャンのレーダー施設は使わせない、と確約していたというんですね。

佐藤 それはあり得ると思う。あの提案をすることで、プーチンはアメリカのイランに対する本気度を見たんじゃないかな。アメリカが本気でいまのイランのアフマディネジャド政権を潰すつもりでいるのなら、アゼルバイジャンのレーダー施設の話に乗ってくる。乗ってこなければイランと本気でケンカするつもりはない。それを満天下に示すためにプーチンが仕掛けた嫌がらせだったんじゃないかと。

河合 それにプーチンはイランの中距離ミサイルからヨーロッパを守るという、アメリカが言っている「目的」にかなった代案を出してきたわけですよね。それをアメリカに拒否させれば、再びヨーロッパに核の照準を合わせるいい口実になる。やっぱりアメリカのターゲットにはオレたちも入っているじゃないか、と。

佐藤 うん、だからアゼルバイジャンのレーダー施設の話には二重の仕組みがあるわけだね。ひとつはアメリカが東欧にMD施設を建設する狙いは、イランだけでなくロシアも含まれているということ。それからブッシュ政権はアフマディネジャドの前でキンタマが縮みあがっていると(笑)。それを満天下に示した。ダブルの嫌がらせだな。

河合 アメリカがイランの核施設を叩かないとしたら、イスラエルはやるかな。

佐藤 やらないでしょう。

河合 やっても意味がないですからね。イランは80年代初頭にイスラエルがイラクのオシラク原発を破壊した作戦から学んでいる。だから核開発の拠点をひとつの場所に集中させずに、あちこちに分散させて同じ施設を複数作ったりしている。

佐藤 それは北朝鮮も同じだね。核施設をうんと地下深くに作ったり。それから昨年のレバノン紛争でイスラエルは事実上敗れており、イランとの戦争に踏み切ることはできない。

河合 イラン問題ではやっぱりキイとなるのは、大統領のアフマディネジャドがいまどれだけ権力を握っているかだと思います。

佐藤 彼の権力はほとんどなくなってきていますよ。ハメネイ師やラフサンジャニが押さえ込んでいる。ハメネイもラフサンジャニも利権を握っているから、あまり荒っぽいことはしたがらない。ラフサンジャニなんか世界中のピスタチオの利権を押さえてるでしょう。アメリカとイスラエルがイラン内部にかなり手を突っ込んでるんじゃないかな。

河合 アメリカとイランの動きを見ると、かなり裏で話が進んでいる感じがするもんね。アメリカが湾岸諸国に対してイランの核施設は叩かないと明言したっていう情報もあるし。

佐藤 その情報、確認してみます。

河合 アメリカのこれまでのやり方から考えると、イランは核を持ってもいいけど公表するなという感じでまとめようとしているんじゃないかな。

佐藤 でも、公表しないと核を持っている意味がない。
 例えば、イスラエルならば、過去の事例で、必要ならば核保有の能力と平気で国際法を破るという性向を国際的に認められている。
 しかし、北朝鮮は、国際法を破る性向は認められているが、核開発の能力自体を疑われている。同様にイランも「能力低し」と思われているから、核兵器所持を広く世界に誇示しないといけない。
 だから、公表しないと意味がない。

河合 佐藤さんのイスラエル情報では、イランは核を保有していると見ていますか。自国で開発したのではなくブラックマーケットで手に入れた核のことだけど。

佐藤 持っていない、と言ってますね。でも、彼らと話していると、すでにイランは核保有するという前提で考えている。それがイスラエルの抹殺に使われないと保証されるのであれば、イランの核保有も仕方がない、と。それより心配なのは、イランが核保有した瞬間にサウジが核保有するということです。彼らは自分たちで開発しなくても、パキスタンからすぐに買える。

河合 パキスタン核開発のスポンサーはサウジだからね。要求されたらパキスタンは渡さざるを得ない。

佐藤 するとどうなるか。今度はエジプトとシリアが核兵器の独自開発をはじめる。イスラエルもそうなったら核保有を隠す必要がなくなる。
 つまり今後10年のスパンで見ると、中東のイラン、イスラエル、シリア、サウジ、エジプトの5ヵ国が核武装することになる。そうなったら核武装のドミノは世界中に飛び火しますよ。NPT体制など吹っ飛んでしまって、核保有していても自由にウランを買えるようになるでしょう。極東でも北朝鮮に続いて、日本、韓国、台湾が核武装する。南米ではブラジルが持ち、アルゼンチンも持つ。次はベネズエラ。もう止められない。まさに筒井康隆の小説『アフリカの爆弾』が世界的に実現するわけです。だから、今後の世界情勢を見るときにイランが極めて重要になってくる。

河合 日本の核武装の問題も今後のイラン問題の行方にかかっているということだね。

佐藤 そう。ただ、わが国は大したもんなんだよ。すでに昭和30年代に、内閣の答弁で核保有は憲法に違反しないと政府で統一見解を出しているんだからね。鈴木宗男議員が今年、それを確認している。だから、いまでも日本は核武装するうえで法的問題はないんです。

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